「コーチ、言ってる事が前と違うじゃないですか!」
コーチの言うことが日によって違う理由
結果が出ているチームほど、コーチのアドバイスは人によって、日によって違います。
それは指導がブレているからではなく、選手の成長段階とその日の状態を見て、見るポイントを変えているからです。
よくある質問
よく考えている選手ほど、こう聞いてきます。
「コーチ、この前と言ってること違うけど、どっちが正解ですか?」
鋭い質問です。ちゃんと聞いて、ちゃんと考えている証拠だと思います。
でも答えはこうなります。
「どっちも正解。正解がひとつというわけじゃない。」
コーチの言葉が日によって変わる理由は、主に3つあります。
この3つが分かると、「言ってることが違う」に見えていたものが、ちゃんと一本の線につながります。
理由①:成長によって課題が更新される
1つ目は、成長によって課題が更新されることです。
選手は、昨日より今日、少しずつ成長しています。
- 昨日できなかったことが、今日はできている。
- 昨日は気にしなくてよかったポイントが、今日は次の課題として見えてくる。
そうなると、昨日と同じアドバイスを今日も繰り返す必要はありません。
むしろ、練習しているのに「ずっと同じ注意点しか言われない」としたら、それは安定しているという意味ではなく、まだ次の段階に進めていない可能性もあります。
アドバイスが変わるのは、指導がブレているからではありません。
課題が更新されているからです。
見ているレベルが一段上がっているからです。
理由②:その日の状態が違う
2つ目は、その日の状態が違うことです。
中高生は特に、日によって状態が変わります。
疲労、睡眠、気温、緊張、学校生活のストレス。
集中力や気持ちの乗り方も一定ではありません。
同じメニューでも、今日は「整える日」になることもあれば、明日は「攻める日」になることもあります。
だからコーチは、その日の状態を見て、見るポイントを変えます。
同じ言葉で押し切らない。
それは甘やかしではなく、現実に即した最適化です。
理由③:同じ練習でも狙いが違う
3つ目は、同じ練習でも狙いが違うことです。
同じ距離、同じタイム設定、同じメニューでも、狙いが違えば別の練習になります。
- 今日はリズム。
- 今日は姿勢。
- 今日は骨盤。
- 今日は接地。
同じ200mでも、同じテンポ走でも、焦点を変えるだけで練習の価値は変わります。
チーム練習では、全員に完全な個別メニューを出すのは現実的に難しい。
だからこそ、同じメニューの中で狙いを個別化する、という考え方が大切になります。
ドリルも同じ:見るポイントは段階で変わる
この考え方は、ドリルでも同じです。
代表的なAスキップひとつ取っても、段階によって意識するポイントは変わります。
- 最初はリズム。
- 次に姿勢。
- その次に軸や連動。
- さらに骨盤、接地、反発、力を出すタイミングと方向。
理想は、すべてが無意識で適正に動いていることです。
でも、それはプロの領域。最初から全部をそろえようとすると、だいたい崩れます。
だから段階を踏む。
いま必要な焦点をひとつに絞る。
それができると、ドリルの質は一気に上がります。
補足:もも上げは奥が深い
もも上げは、特に奥が深いドリルだと思います。
一見単純ですが、姿勢、軸、接地へのつながり、力を出すタイミング、抜くタイミング、すべてが詰まっています。
単純だからこそ誤魔化しがきかない。
単純なことの精度を究極まで上げるために、複雑なドリルや意識づけがあるのでは、と感じることすらあります。
中学生で「タイプ分け」を急ぐのは早いことが多い
ここで、よくあるタイプ分けについても触れておきたいと思います。
短距離では、前半型・後半型、ショートタイプ・ロングタイプなど、選手を型に分類したがります。そして、〇〇タイプだからこうした方がいいとタイプ別の型にはめがちです。
明らかに適性が見えている選手は、それで整理してもいい場面もあります。
ただ、中学生のうちは、まだ○○タイプと決めるのは早いと感じています。
中学生は、身体が最も不安定に変化する時期です。
- 身長だけが先に伸びる選手。
- 筋力が先に強くなる選手。
- 骨・筋肉・神経の発達は、同じスピードでは進みません。
この成長のズレによって、前半がうまくいかない日が出たり、後半が落ちたり、動きが重く見えたりします。
それを「自分は後半型だ」「自分は前半が弱いタイプだ」と決めつけてしまうと、本来は一時的な成長段階の問題を、自分の才能や限界だと勘違いしてしまう危険があります。
実例:自称「後半型」が、前半を整えたら変わった話
こんなことがありました。
「僕は後半に強いタイプなんです。だから後半を磨きます!」と言って入ってきた選手。
前向きで、よく考えている姿勢は素晴らしい。
でも、よく見るとスタブロのセットがめちゃくちゃで、パワーポジションも作れていない。
レース動画を見ると、前半は崩れていて、後半なんとか持ち直して人並み、という走りでした。
パワーポジションの説明をして、スタートの基本を整えたところ、前半が一気に速くなりました。
あらためて「前半型だと思う?後半型だと思う?」と聞くと、「分からなくなりました」と。
それでいいと思います。自分の色を見つけるのは、もっと後でいい。
中学生のうちは、いろいろなペースで、いろいろな練習をして、身体と動きの引き出しを増やす。
その方が将来の選択肢は確実に広がります。
だから、同じ距離、同じタイム設定でも指示は変わります。
今日は後半を上げてみよう。
今日は前半から入ってみよう。
今日は自分のペースで、崩れないことを優先しよう。
同じメニューでも狙いをずらす。
それが、タイプ分けよりもずっと大事な土台づくりになります。
アドバイスが少ない選手がいる理由
一方で、極端にアドバイスをすることが少ない選手もいます。
これは、見ていないという意味ではありません。むしろ逆です。
「ここ、声をかけようかな」と考えている間に、その選手は自分の感覚で動きを修正してしまう。
リズムが崩れたな、と思った次の瞬間には整っている。
姿勢が乱れたかな、と思ったら、次の1本ではもう戻っている。
こういう選手は、自分の中に基準があります。
違和感に気づき、自分で修正できる。
コーチの言葉を待たなくても、自分で答えを出せる。
これは、とても理想的な状態です。
アドバイスが少ない=評価が低い、ではありません。
アドバイスが少ない=自立している、というケースもあります。
まとめ
コーチの言うことが日によって違うのは、気分で指導しているからではありません。
成長で課題が更新され、その日の状態を見て、同じ練習でも狙いを変えているからです。
同じメニューでも、見るポイントを変える。
同じドリルでも、焦点を変える。
そうやって積み上げた選手は、競技人生が長く、強く、しなやかです。
